聖なる夜に新しい恋を
「……本当にこれでよろしいんですか?」
「はい、これだけキレイに写っていれば大丈夫です〜。三田さん、ありがとうございます〜」
「鈴木さんからは、今日の撮影に関して何かありましたか?」
「あー、ちゃんと撮れてるか見て来て、とだけ〜」
「……」
ニコニコしながら呑気に女が答える。何もわかっていない人間が立ち合うなんて、立ち合い無しの撮影と何ら変わらないではないか。溜息をつきながらスマホを取り出し、指示を仰いだ上司へメッセージを入れておく。
脳みそ空っぽなこの女を指導するのは、もちろん俺の役目では無い。が、このまま帰らせて相手会社と後々揉めたり、こちらの修正の手間が増えるのだけは避けておきたい。鈴木さんも仕事は出来るのに、指導となるとまた別の才能なのだなと感じながら、仕方無しに女に説明をした。
「佐伯さん、こういう写真は美し過ぎても駄目なんです」
「え〜そうなんですかあ?」
「ある程度リアリティが無いと。美しいだけで良いなら、CGだって良いですよね?でもこれはあくまで写真。嘘偽りの無い姿を、購入者の方にお見せしなければいけないんです。グリーンピースのシワも、餡掛けのツヤも、全て同じでは無いし、こんなに美しく出来るものばかりでは無いんです」
「じゃあどうするんですか?」
「今お選びいただいたお写真に加えて、こちらでもうひとつお選びします。それぞれ綺麗なものと、リアル寄りのものです。仮当てしたパッケージイメージを後でメールでお送りしておきますので、最終的には鈴木さんと話してどちらの写真を使うか決めていただけますか?」
「三田さんがそう言うならわかりました〜、また追ってご連絡します〜」
──媚びるにしろ、ここまで自分の意志が無いとは。他人事ながら呆れてしまった。
ここのキッチンスタジオでは、写真データ複数枚は料金が変わる。今回は、こういう事態を説明していなかったので、天照でプラス分の料金を持つことにした。事前に上に仰いでおいて良かったと、ほっと胸を撫で下ろして撮影を終了した。
「写真、どれにします?」
「んー……これかこれ、どっちかですかね。ちょっと大きくして細かいとこ見せてください」
女を返した後、ぬるくなったかに玉をいただきながらスタジオスタッフと話す。撮影で使用したものは、もったいないので全ては捨てずになるべく食べている。いつもなら早めの晩ご飯と称してたくさん食べるのだが、今日はこの後約束がある。いつもより少なめの量を平らげ、今日撮ったかに玉が表示されたモニターを確認した。
窓の外には、冬の早い日没が迫っていた。