聖なる夜に新しい恋を
納会と言う名のご講説が終わって、十分もしないうちに着信が来た。非常階段へ足を運びながら、嫌味ったらしく電話を取る。
「お疲れ様ー、先週ぶり!」
『お疲れ様。紗礼は元気してんの?』
「まあぼちぼち、ね。それで?どうしたの?」
『その、さ。────やり直さないか?俺たち』
「冗談やめてよ」
『んな訳無い。本気だよ』
「……それは、出来ない。ごめん」
──やっぱり。そんなところだろうと踏んでいたが、良い話ではないのは確かだ。大体、児玉さんから新卒の子にこっぴどく振られた話も聞いているのに、すんなり元鞘に戻ろうだなんて虫が良すぎる。
「大体、そっちから振ったのに今更何なの?」
『いや、結局クリスマスはひとりになったんだ。それで、元の約束通り紗礼に会えないかなー、なんて。イメチェンしたんだって?かわいくなった紗礼も直接会って見てみたいし』
「新卒の子に振られたから、私に舞い戻って欲しいってこと?」
『……』
呆れた。はあ、と思わず溜息が溢れる。押し黙ったのは図星だからだろう。こんな卑怯な男と付き合っていたのかと、自分が情け無くなってしまった。
言って伝わるかはわからない。でも、伝えておきたいことがあった。気持ちが後押しする中で、口を開く。
「私ね、先週は別れたくないって引き止めてたけど、今は和くんと別れて良かったって思ってる」
『えっ』
「和くんとの付き合いは楽しかったし幸せだったけど、別れてみて自分を見つめ直せたんだ。人生とか、価値観とか。それで、過去も未来も含めて、もう少し自分のこと大事に生きてみたいなって思えるようになったの」
『……』
「そのきっかけをくれた和くんには感謝してる。ありがとね。でも、もう特別な関係じゃなくて、同期のひとりに戻りたいの」
『紗礼……』
「もうそんな風に呼ぶのはやめてよ──巽くん」
私はもう彼女じゃないし、名前で呼ぶような間柄じゃない。その意思のもと、彼を姓で呼んだ。