聖なる夜に新しい恋を
『……お前は、それで良いのかよ』
「え?」
『紗礼もどうせひとりなんだろ?なら、独り者同士傷を舐め合うクリスマスだって悪くないと思わねーか?』
「何言ってるの?」
『クリスマス過ぎたら別れて良いから。最後の思い出作りの提案だよ。聖夜に心と体を重ねてお別れなんて、ロマンチックだろ?』
別れた男にクリスマスに体を差し出せ?電話越しに聞こえる自分勝手な要求に、だんだん腹が立って来た。一度は愛した男と思っていたが、その化けの皮の下はどうやら人の心を持ったものでは無いらしい。ならば、それには強気で応戦させてもらおう。
「ばっっっかじゃないの!とっくに巽くんには愛想は尽きてるの。寂しいならよそをあたってよ」
『っ、紗礼は寂しく無いのかよ』
「ぜーんぜん。この一週間、いろいろあったから寂しくなんてなかったわ」
『まさか、もう新しい男でも出来たのか?』
「新しく作ってなんか無いわ。私、巽くんみたいに強欲じゃないから」
『じゃあ浮気か!?俺と付き合ってる時からか!?』
「悪いけど、仕事人間だからそんな男漁りしてる暇なんて無いの。ましてや浮気だなんて。……もしかして、自己紹介ってやつ?」
『!……違っ、うるせー!』
電話が切れ、ツーツーと無機質な電子音が流れた。何と下劣な会話だったのか。そして、彼の本性をまざまざと見せつけられ、思い出にしようとした心の奥の記憶が嘘のように弾け飛んでゆく。忘れてしまおう、あんな男との関係なんて。好きだった過去の自分は否定できないが、胸の内で思い出として残しておくまでも無い。
けじめというか、何というか。先週からずっともやもやとしていたが、やっと彼への気持ちにひと区切り着いたような気がした。今し方の怒涛のやり取りに、またも溜息をつく。スマホをポケットへ入れながら脱力した。
(お歳暮、もう仕分け終わったよなあ……)
今が仕事中であることを思い出す。社内営業のチャンスが消え、少しだけ気を落とした。とはいえ、ここに居続けていても仕方が無い。冷えた体を引きずって、非常階段からフロアへ戻った。