聖なる夜に新しい恋を

芽生え





 今日はクリスマスイブ。街は華やぎ、誰も彼もが大切な人と過ごす特別な日。しかも今年は暦が良く、イブが土曜日、クリスマス当日が日曜日なのだ。街は一層の賑わいを見せ、普段何処に居るのかと思う程の人で溢れていた。

 だのに。


(絶っ対来る場所ミスった……!)


 新宿ではなく池袋なら、とおひとり様で百貨店へ乗り込んだ。が、流石に不味かったようで、場違い感がビシバシと伝わってきた。
 他社の勉強も兼ねてクリスマスコフレを見たかったのだが、美容部員と話し込むのはカップルやおしどり夫婦たち。仕方無い、クリスマスらしくちょっと良いものを食べようかと食品のフロアへ行くも、ケーキの受け取り待ちの長蛇の列。ひとりで並んでいる人も、もう少しで順番回ってくるからそしたら受け取って帰るよ、なんて家族と電話で話すような人がちらほら。──ここは、私のような人には空気が幸せ過ぎて、早々に退散してしまった。


(家の近所のスーパーで、お惣菜のチキンでも買おっかな)


 ファストフード店も夕方といえど満員で座れず、駅の壁に体重を預けてこの後のことを考えた。コスメカウンターに寄るつもりで大したおめかしもしていないのだ、家でのんびり過ごすのも有りだな、などと考える。

 友人たちは年齢的にも既婚者とカップルに二分されているが、どちらも愛する人と大切な時を過ごしていることだろう。つい先週まで、私もその予定だったのに。


(とりあえず帰ろ。贅沢にひとりピザなんてのも良いかも)


 おひとり様クリスマス計画を練りながら、改札へと向かった。と、突然、スマホがコートのポケットで震え出した。長さから考えて、電話着信のようだ。


(こんな時に実家から電話なんて……面倒だけど出るか)


 電話なんて掛けて来るのは、決まって和くんか実家からだった。彼と別れた今は、後者しか掛けて来ない。後ろめたいことは何もないが、話すことも特にない実家とのやり取りは少々億劫なのだ。気後れしながら、画面も大して見ずに指を滑らせて通話を繋ぐ。


「もしもし?何?」

『あ、紗礼さん?』

「!!!!!」


 完全にノーマーク。無防備な耳に飛び込んで来た声は、私の頭を覚醒させる。もちろん、今週耳にこびり付く程聞いたそれを間違えるはずもなく。


「……三田くん?」


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