聖なる夜に新しい恋を

◆◆◆

「あれ、何か放送?もしかして外?」

『外、だけど……いきなり電話なんて。びっくりした……』


 電話の向こうからは、駅の構内放送らしき音声と、少しトーンの落ちた彼女の声が聞こえてくる。こんな日に外出なんて、おそらく誰かとの予定だろう。少し沈んで聞こえる声も、楽しい時間を邪魔してしまったからだろうか。

 この間のクリスマスの予定が飛んだとの言葉に賭けたが、どうやら埋まった後なのだろう。サプライズみたくなってしまったのは、他でもない俺のせいだ。残念だが、予定を空けておいてと連絡しなかった俺が悪い、ただの自業自得だ。


「そっか、お出かけ中に邪魔してごめんね。それじゃ楽しんで」

『三田くん!』


 耳を離そうとする間際、彼女の声が大きくなった。心配させまいとして、彼女なりの気遣いだとしたら申し訳無い。早めに切らなければ。


「別に、お邪魔虫の俺は気にせず楽しんでよ」

『私も今は空いてるから。何か用事なら今聞いておこうと思って』


 ──思わぬ返事が返ってきた。ならば話は早い。夕刻なので予定と予定の合間なのかもしれないが、こちらの意志くらい伝えてもばちは当たらないだろう。
 少し移動したのか、電話の向こうのが静かになっていく。俺が勝手に送ったメッセージにもちょこちょこ返信をくれたり、俺を気にして謝ってきたり。こういう小さな気遣いが、流石彼女らしいなと感じて少し顔がほころんだ。


「……ありがと。あのさ、今日どっかで会えない?」

『えっ、今日?』

「うん。知り合いの店で予約してた人が感染して、キャンセル入ったらしくて、チキンわけてもらえたから。良かったら紗礼さんもどうかなって」


 半分は嘘だ。知り合いの店でチキンをわけてもらったのは事実だが、取り置きをお願いした。第一、こんな稼ぎ時に席が空いたなら、キャンセル待ちや予約無しの客を入れるはず。食事をよそに回す料理店なんて、そうそう無いだろう。
 作り話を疑われる前に、早々と口走る。


「時間があんまり無いなら包装のまま渡すし、もちろん空いてるなら一緒に食べたいけど、どう?」

『えっと……』


 返事は渋られ、空白のノイズが耳へ流れた。──やはり無理か、今日突然の誘いなんて。せめて、これからの時間を共に過ごすのが意中の男じゃなければと願うばかりだ。


「やっぱ空いてないよね。ごめん、突然電話掛け」
『っ三田くん!』


 珍しく、彼女が被せるように食い気味に返してきた。ザラザラとした音声が、小さなスピーカーから溢れんばかりに飛び出す。


『空いてるけど、よ、夜でも良い?』


 返ってきたのは、まさかのOKサイン。

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