【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「ランティス様! やだ! 逃げて!」
ボロボロとひっきりなしにこぼれる涙。
(もう、30分以上経ってしまった)
だから、早く狼の姿になって、ここから逃げてほしいとメルシアは願う。
自分のことなど、置いて逃げて欲しいと。
その一方で、今までの日々で嫌になるほど知ってしまっている。
こんな場面で、ランティスが逃げるはずなどないのだと。
「ランティス様!」
メルシアは、バンバンッと音を立てて、窓を叩いた。
ランティスは、未だ人の姿のままだ。
だが、尋常ではないほど、滴り落ちている汗。
(早く、早く狼の姿になって!)
「……メルシア」
遠くから見ているなんて嫌だと、メルシアの頬を大粒の涙が伝う。
視界の端に、メルシアの涙を捉えたランティスが、少しだけ口元を歪ませる。