【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「ずるいな。俺は……。でも、もう離れるなんて耐えられないから」
目を瞑ることもできないメルシアの頬に、ためらいがちに寄せられた唇。
サラリと解かされた髪の毛の先にまで、神経が行き渡っているのではないかとメルシアは思ってしまう。
唇が離れると、するりとその部分に長い指が触れる。そして、そっとランティスの親指がメルシアの唇に触れた。
「同じ記憶を共有していたって、先を越された感が、否めない。お願いだから、ここは俺に取っておいて?」
「ふぁ、ふぁい……」
「はは、可愛い。…………聞いて。あの時から、ずっと好きだったんだ。メルシア」
微笑んだランティスの瞳は、まっすぐメルシアを見つめたままだ。
でも、なぜだかわからないのに、メルシアはその話の続きを、聞きたくないと、このままがいいと、思ってしまったのだった。