【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
そう、いつだって、ランティスは、メルシアのそばにいたのだ。あんなにストレートな愛情表現をしながら。
「ずるいよ」
ランティスは、ずるい。
本当に好きなのであれば、婚約破棄などせず、やっぱり伝えてくれればよかったのだ。
コツンッと、頭をラティに近づけて、額を合わせる。
「ああ、ずるいな。俺は」
また、メルシアは、やらかしてしまったらしい。
ラティから変わったランティスの、美しいオリーブイエローの瞳が、視界の全面に映り込む。
近い。額と額をくっつけた距離は、あまりにも。
「もう、遅いだろうか……」
「ランティス様。だって、婚約は破棄され」
「っ、すまない。まだ、破棄していない。誰にも言っていないんだ!」
額同士は、くっついたままだ。
だから、パチパチと瞬いたメルシアの長いまつ毛は、ランティスのそれと触れ合ってしまいそうだ。
「え……?」
「……今まで大切にしてきたこと、全てと比べても、メルシアのそばに居たいという気持ちの方が強いと、あの時やっと気がついた」
「……ランティス様?」
浮かれていたのだろう、メルシアは。
近くなった距離。微笑みを真っ直ぐ向けてもらえる幸せに。