【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「別の名前があるよね? ごめんね。ランティス様に……。迷惑かけたくない。たまに、君にも会えたらうれしかったんだけど。それで、あわよくば、ランティス様を遠くから見られたらなんて……。図々しいにもほどがあるよね」
「ワフ!!」
グリグリと、犬が頭をメルシアに押し付けてきた。
まるで、呼んでもいいとでもいうように。行くなとでもいうように。
「――――やさし……。そして、かわいい」
いつの間にか、涙が止まったメルシア。
ランティスと同じ色をした瞳で、メルシアを見つめる白い犬。
「――――ラティと呼んでいい?」
「ワフ!!」
しっぽをブンブン振っているのを見て、同意しているとメルシアは思うことにした。
「ありがと……。たぶん、もうここには来られないけど。だから、ラティにも会えないね?」
「……ワフ」
もう一度、ラティがメルシアに擦り寄ったとき、メルシアの涙はすっかり乾いていた。