【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
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メルシアは、最近ため息ばかりついていた。
ランティスを遠くから眺めるだけでいい、と思ったけれど、元婚約者が訓練場になんて現れたら迷惑に違いない。
そう考えてしまうと、身動きが取れなくなる。
遠くから騎士様で侯爵家のお方のランティスのことを、メルシアが見ることが出来る機会なんてほとんどないのだ。
「モフモフのラティにも会えない……」
メルシアは、ランティスが好きだった。
遠くからその姿を見ているだけで幸せで、好きなものを知ったり、最近の活躍の情報を集めるだけで、天にも昇る気持ちだった。
「――――恵まれていたんだわ」
大きなため息をもう一つ。
(婚約破棄しても、遠くから眺めるくらいなら出来ると思っていたんだけどなぁ)
貧乏伯爵家のメルシアは、少しでも家族の食い扶持になればと、治癒院で働いている。
ほんの少しだけ、光魔法の素養があるメルシア。
光魔法を持っている人は珍しいから、ほんの少しの治癒魔法でも、それなりに重宝されていた。