国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 ジェシカのその言葉にフローラの頭の中にはたくさんのはてなマークが浮かんでいて、しきりに彼女の言葉の意味を考えるような表情をしているのだが、その姿はジェシカから見えるわけもない。
「冷牢って、冷たい牢っていう意味よね。だからね、ここには冷たいものがあるのよ」
「冷たいもの? 冷たい風、とかですか?」
「違うわよ。ほら、さっきから水の流れる音が聞こえるでしょう? 本当に嫌になっちゃう。私たちが気付くまでその量を制御していたとしか思えないわ。ほら」
 ジェシカがその場所で足踏みをすると、パシャパシャと水が弾く音がする。
「冷牢って、盗賊とかを閉じ込める部屋だから。こうやって水攻めで意識を失わせて、そして証言をとるっていうか。まあ、そういう部屋よね。意識を失うだけだったらいいけど、その、誰にも見つからなかったら、死んじゃうわよね」
 ピチャリ、ピチャリと聞こえていた水滴の音が、ポタ、ポタ……、タ、タ、タ……、ザーと変わるまでそう時間はかからなかった。
「ね、ほら。あっという間に水かさが増えてきた。私たちの様子をどこかから見ているみたいに、ね」
 先ほどまでは靴底を濡らすだけの水だったのに、いつの間にかその靴の上を超え、くるぶしまで覆われていた。
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