国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「ジェシカ様。とりあえず、高いところへ」
「何もないわよ、ここ」
「ですが。少しでも高いところに」
「その気持ちはわからないでもないけど、ま、無理ね」
 フローラは出入り口の扉に近づいてみた。鉄の扉。もちろんびくともしない。扉が開かないのであれば、注ぎ込まれる水を止めればいいのではないか。そう思って、その水音の出る場所へと近づく。
 この水を凍らせてしまえばいいのでは、そう思ってそれに触れてみる。
 だが、不思議なことに何の魔力も生まれてこなかった。
「え?」
「フローラ。あなた、冷牢について本当に何も知らないのね。ここでは、魔力も無効化されるわよ。だって、悪者を閉じ込めておく部屋なんですもの。魔法で逃げられたら困るでしょ?」
 表情はよく見えないけれど、ジェシカのその声はわざとらしいくらいに明るかった。
「さて、と。助けに来る方が早いか、私たちが水死する方が早いか。どちらもまだまだ時間がかかりそうだから、ねえ、フローラ。私の話相手になってくださらない? そう、ね。私、来月、アリハンスへ行くことが決まりそうなの。そう、あのアルカンドレ王子との話がね、そろそろ決まりそうで。それで、あなたとクリスの話をね、もっと聞いてみたいの」
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