国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 クリス――。
 その名を耳にしただけで、フローラの心はズキリと痛んだ。彼は、自分がいなくなったことに気付いてくれるだろうか。あの部屋から出てはいけない、と言われていたのに、勝手にいなくなった自分を咎めるだろうか。
 それよりも、彼を置いて先に逝くようなことになった場合、彼はどうなってしまうのだろうか。自分がここにいてもいいという居場所を与えてくれた彼。彼と別れるという選択肢など、いらない。
 だけど。
「そうですね。それよりもジェシカ様。少し、身体が冷えてきたのではないでしょうか。できるだけ、近くにいた方がいいですね」
 フローラは手を伸ばしてジェシカを抱き寄せた。やっと成人を迎えた彼女。フローラの任務は彼女を守ることだ。己の身に何が起こったとしても、絶対に彼女だけは守り通す。
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