国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「団長」
 一人の騎士がアダムを呼ぶ。
「団長、冷牢の水位が上がっています」
 冷牢の役目はそういったことであるため、この宝物庫からそこの水位を確認できる計器がつけられている。
 そして、その部下の言葉が示すことなど、一つしかない。誰かがこの冷牢に閉じ込められていて、そして今、水責めの刑にあっているということ。
 では、閉じ込められている誰かとは誰なのか。
 冷牢に続く扉は、二枚ある。宝物庫から冷牢へ続く通路の扉と、その通路と冷牢を繋ぐ扉。それは冷牢の役目によるもの。手前の扉を開ければ、冷牢の中の水が引ける仕組みになっているのだが。
「クリス殿。こちらの扉も頼めるか」
 アダムは後ろから遅れてやってきたクリスを見つけると、声を荒げた。
 クリスはふっと鼻で笑う。
「ええ、言われるまでもなく」
 先ほどまでの疲労感など感じさせない笑みを浮かべてはいるが、無い物を具現化しさらにそれを微細に形成して動かすという術式は、かなりの魔力を消耗する。
 恐らく、通常の魔導士であれば今頃ぶっ倒れていただろう。クリスだから、こうして立っていることができる。
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