国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「ナッティ、です。ジェシカ様付きの侍女、ナッティ・イオール」
「イオール……」
 その名に聞き覚えはあった。そう、過去の闇魔法の使い手の家系図を探っていた時に目にした家名だ。
「覚醒、ですね」
「覚醒?」
 温かいお茶のカップを両手で包み、その温もりを手の平から感じていたフローラは尋ねた。
「ええ。今まで魔力の無かった者が、何かのきっかけでその魔力を目覚めさせてしまう。フローラ、あなたの場合は意図的に封じ込められていたため、覚醒には該当しません。覚醒は、本当にまったく今まで魔力の無かった者が、突然、それを手にしてしまうこと。何代か前にそういった魔力の持ち主がいた場合、極稀に起こりうることがあります。昔は、魔導士は魔導士同士の婚姻が普通でしたが、今は、いろんな血が混ざるようになりましたからね」
「でも、仮にナッティがそうだったとしても。ジェシカ様や私が狙われる理由がわかりません」
「それは、本人に聞くしかありませんね」
 クリスは笑いもせずにそう言った。フローラは温かいお茶を一口飲んだ。その温かさが喉から胃にかけて流れていき、やがて全身に行き渡るような感覚さえあった。
「それを飲み終えたら、行きましょう。どうやら、団長たちがそのナッティを捕まえたようです」
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