国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 別れた、と先ほどから彼女が言っているにも関わらず、そう聞きたくなってしまうのは、フローラとサミュエルが別れたことを事実として受け入れられない面があるからだ。
「いいえ。サミュエルはそのようなことを言うような人ではありません。ですから、私の方から別れましょう、と言いました」
「それで、別れたのか?」
「はい。私は結婚よりも仕事を取りました」
「そうか」
 そこで腕を組むと、アダムは背もたれに寄り掛かった。お似合いだと思っていたのだが、というのが本音である。
 さらに、このフローラをあのクリスに奪われてしまうのか、という悔しい思いもあった。
「それで、クリス殿とはどこまでいっているのだ? もう、すぐにでも結婚しようという話になっているのか?」
 そうなれば、やはり彼女のシフトはもう少し柔軟に考える必要があるだろう、と思っていた。
「あの、どこまで、というのは何を指していらっしゃるのでしょうか。まだどこにも行ったことはありません。クリス様とはまだ一度しかお会いしたことがありませんので」
「一度? つまりたったの一回、ということか?」
 こちらも動揺のあまり、変なことを口走ってしまったようだ。
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