国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「では、行きましょうか」
 クリスは右手を差し出した。
「え、と。どちらに?」
 フローラは尋ねてしまった。ここでクリスと待ち合わせをして彼に会いなさい、という宰相の言葉を回り巡ってアダムから聞いたのだが、その後のことは何も聞いていない。
「どこか、行きたいところはありますか?」
 クリスは差し出した手を引っ込めるようなこともせず、そのまま尋ねた。
「え、と。ごめんなさい。あの……、このようなことが初めてで。その……、どこへ行ったらいいかということもまったくわからないのです」
「そうですか」
 ふむ、とクリスは唸った。
 クリスから見れば、彼女の反応は、結婚を考えていた彼氏がいたとは思えないものであった。そもそも前の彼氏とは出掛けなかったのだろうかという疑問が、沸々と湧いてくる。
「では、今日は私の行きたいところでもよろしいでしょうか」
「はい。是非、お願いします」
「でしたら、こちらの手を取ってくださると、私も非常に助かるのですが」
「え、と。その……。クリス様と手を繋ぐ、ということでしょうか?」
「そうなりますね」
 ちょっと困惑したフローラだが、失礼します、と言ってからクリスの手をとった。彼の手は少し骨ばっていて、大きな手だった。
< 32 / 254 >

この作品をシェア

pagetop