国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「ごめんなさい。私、今、その……、他の方とお付き合いしているから……」
「他のヤツだと?」
 サミュエルの周りの気温が少し下がったように感じるほど、彼の表情が一変した。組んでいた手をほどくと、乱暴にフローラの手首を掴み、答えるまでその手を離さないというようにきつくそこを握りしめる。ぎりぎりと力強く。
「痛い、離してサミュエル」
「離さない。相手は誰だ。今から俺がそいつに会って、お前と別れるように言ってくる」
「やめてっ」
 フローラは先ほどと同じように掴まれている右手を振り上げる。だが、彼はそれをけして解放しようとはしない。
 さらにフローラは空いている左手で、無理やりサミュエルの手を引きはがそうとするが、その手もサミュエルに封じられてしまう。
「フローラ。お前、誰と付き合ってんだよ。俺と別れてからそんなに経ってないだろ。そうやって、すぐに股開いたのかよ」
「やめて、離して」
「離さない。お前が、その相手の名前を言うまで」
 フローラは絶対にクリスの名を口にしないと決めていた。彼に迷惑がかかってしまうから、それだけは避けたいと思っていたのだ。
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