国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 そして彼女の顎にもう片方の手を添えると、そのサミュエルに見せつけるかのように、深く口づける。
「あっ……んふっ……」
 角度を変えながら舐るように深くクリスが口づけをすると、その喉の奥から彼女の甘い声が漏れてくる。一通り堪能してから、クリスはその唇を離した。その頃にはフローラの身体は少し力が抜け、クリスの手に体重をかけるようにして立っていた。
「お分かりになりましたか? 私たちがこんなに愛し合っているということを」
 少し呆けているフローラの顔を目にしたサミュエルは、ギリギリと歯を噛むしかない。何かしら捨て台詞を考えているのだろう。
 クリスは彼女を守るように、背に回している腕にぎゅっと力を入れた。
「そんな尻軽女。こちらから願い下げだ。せいぜい俺のお古で楽しむんだな」
 なかなか下品な捨て台詞だった。
「では、遠慮なくいただきます」
 クリスは勝ち誇った笑みを浮かべて、負け犬の背中を見送った。
「クリス様」
 クリスの腕の中にいるフローラは、彼の名を口にした。
「ああ、フローラ。大丈夫でしたか? 怪我はありませんか?」
「あ、はい。おかげさまで。その、あの、ありがとうございました」
「いえ。あなたを愛する者として、当たり前のことをしただけです」
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