国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「あまり、慣れてはいないのですか?」
 クリスがペロリと唇を舐めてから、見下ろしながら問う。
 そのクリスを見上げている彼女は、涙で少し濡れた睫毛をゆっくりと動かしながら、頷いた。
「そうか。あなたの前の男は、満足に口づけもできない男だったのですね」
 どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべ、クリスは彼女の顎に手を添えて、もう一度深く口づけをする。息をするタイミングもわからないフローラは、不慣れながらもそれに答えようとする。それがまた、クリスの心を揺さぶった。心臓にざわざわと強風が吹きつけるような感覚だった。
 彼はその手で、彼女の胸を布越しに触れた。すると、フローラはピクリと身体を震わせる。
「んっ……」
 唇を塞がれていながらも、何かしら声を出そうとしているフローラに気付き、クリスは一度唇を離した。
「こちらにも触れてもいいですか?」
 彼女が嫌がっているわけではない、ということはなんとなくわかっているのだが、そう尋ねてしまった。それは彼女から肯定の返事を得たいから、というのもある。
 フローラは涙で濡れている睫毛と、潤んでいるその目を大きくしばたたかせながら頷いた。特に彼女が嫌がっている様子は見られなかった。
「では、遠慮なく」
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