月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「トールにちゃんと挨拶すればよかった……」
クリスティナはふと、トールという名の男子生徒のことを思い出す。
彼は隣国クロンクヴィストからの留学生で、あまり学園に通えなかったクリスティナに何故か優しくしてくれた男子生徒だ。
休みがちで勉強が遅れ気味のクリスティナに、彼はいつもノートを貸してくれた。そして休んでいる間にあった学院での出来事を、冗談交じりに教えてくれていたのだ。
多忙なクリスティナが無理やり都合をつけて学院に通おうとしたのも、トールに会いたいためだったのかもしれない。
「でもあんな事があった後に、どんな顔で会えばいいのかわかんないしなぁ……」
あの衆人環視の中にトールがいたのかどうかわからないが、もしいなかったとしても生徒達からの噂でクリスティナのことを知らされるだろう。
それはそれですごく恥ずかしいが、もうトールとは会うことがないのだから、気にする必要はないだろう、とクリスティナは最後に彼へ感謝の言葉を告げて、無理やり忘れることにした。
クリスティナの言葉はきっと、トールに届くことはない。だけどクリスティナはそれでも構わずに叫ぶ。
「トール!! 今まで有難うー!! 元気でねーー!!」
──クリスティナの言葉は誰にも気付かれること無く、空気に溶けるように消えていった。
そうしてクリスティナは満足そうに笑顔を浮かべると、学院に背を向けて歩き出したのだった。
クリスティナはふと、トールという名の男子生徒のことを思い出す。
彼は隣国クロンクヴィストからの留学生で、あまり学園に通えなかったクリスティナに何故か優しくしてくれた男子生徒だ。
休みがちで勉強が遅れ気味のクリスティナに、彼はいつもノートを貸してくれた。そして休んでいる間にあった学院での出来事を、冗談交じりに教えてくれていたのだ。
多忙なクリスティナが無理やり都合をつけて学院に通おうとしたのも、トールに会いたいためだったのかもしれない。
「でもあんな事があった後に、どんな顔で会えばいいのかわかんないしなぁ……」
あの衆人環視の中にトールがいたのかどうかわからないが、もしいなかったとしても生徒達からの噂でクリスティナのことを知らされるだろう。
それはそれですごく恥ずかしいが、もうトールとは会うことがないのだから、気にする必要はないだろう、とクリスティナは最後に彼へ感謝の言葉を告げて、無理やり忘れることにした。
クリスティナの言葉はきっと、トールに届くことはない。だけどクリスティナはそれでも構わずに叫ぶ。
「トール!! 今まで有難うー!! 元気でねーー!!」
──クリスティナの言葉は誰にも気付かれること無く、空気に溶けるように消えていった。
そうしてクリスティナは満足そうに笑顔を浮かべると、学院に背を向けて歩き出したのだった。