月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「あー、いかんいかん。落ち着け私! もう自由になったんだから喜ばないと!!」

 クリスティナは持ち前の前向きさで、ネガティブになりそうな思考を何とか切り替える。

「ああ〜〜……でも学院はもっと通いたかったなぁ……」

 王妃教育からも聖女の勤めからも開放されたクリスティナだが、心残りが全く無かった訳ではない。

 ブレンドレル魔法学院は、質の高い教育と充実した設備を兼ね備えたセーデルルンド王国が誇る最高学府だ。他国の高位貴族達が留学に訪れるほどその評価は高い。

 貴族の子女が多く通う学院ではあるが、実力主義的傾向が高いので、優秀な人材であれば身分関係なく受け入れてくれる。

 小さい頃、両親を亡くしたクリスティナは孤児だったが、地頭の良さと魔力量の多さで特待生として入学が許可されたのだ。
 しかし折角入学したものの、神殿からの呼び出しや王妃教育のために王宮に通わなければならず、クリスティナはほとんど学園に通うことが出来なかった。

 神殿や王宮では年上の人間に囲まれていたので、同年代の少年少女と関わりが持てる学院生活にクリスティナは憧れを抱いていたのだが……。
 その学院生活が送れなくなってしまったことが、クリスティナの唯一の心残りとなっている。
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