月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 何とも言えない雰囲気になりかけた時、トールが掴んでいた魔物の子供がジタバタと暴れだした。

「わうわうっ!! わふぅっ!!」

「うわっ!!」

 驚いたトールが思わず手を離すと、魔物の子供は再びティナへと飛びついた。

「え? え? どうしたの?!」

「くぅ〜ん くぅ〜ん」

 まるで”抱っこして”とせがむような鳴き声に、ティナはそっと魔物の子供を抱き上げる。
 すると、魔物の子供は安心したかのように丸まり、ティナの胸に顔を埋めた。その様子はそこが定位置だと言わんばかりだ。

「っ?! コイツ……っ!!」

「ト、トール落ち着いて! まだ子供だから!! きっと寂しいんだと思う!!」

 再び魔物の子供を引き剥がそうとしたトールを、ティナが慌てて静止する。魔物の子供を庇うティナに、トールは「……ゴメン」と言って、伸ばしかけた腕を下ろした。

「有難う、トール。心配してくれて」

「……うん。でも、ソイツをどうする? もし一緒にクロンクヴィストへ連れて行くつもりなら、モルガンさんの所に戻ってもう一度相談する?」

 ティナには懐いている様子の魔物の子供だが、他の人間に危害を加えないとは限らない。それにいくら魔物の子供でも忌避する人間はいるのだ。
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