月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「うん。モルガンさんにはこの子から全く害意を感じないから大丈夫だって……一緒に連れて行ってあげたいって言ってみようと思う」

「わかった。俺も協力するよ」

 魔物の子供を人一倍警戒していたトールだから、きっと同行を反対するとティナは思っていた。それでも協力してくれるのは、ティナを想ってのことだろう。

「本当?! 有難う! やっぱりトールは優しいなぁ」

 トールの気持ちが嬉しかったティナは、満面の笑顔でお礼を言う。

「……優しくなんてない」

 そう素っ気なく言いながらも、トールの耳が赤くなっていることに気付いたティナは、トールをとても愛おしいと思う。

 自分は意味深なことを言うくせに、言われるのは慣れていないトールに、今自分が考えている言葉を口にしたら──彼はどう反応するのだろう。

 ──本当は魔物の子供が、トールにとても似ていたから抱きしめたかったのだと。
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