月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

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 モルガンは帰って来たティナたちを見て驚いた。

 魔物の子供を連れ帰ったこともそうだが、その魔物の子供が大人しく──と言うより、甘えた様子でティナの腕の中にいたからだ。
 基本、魔物は人に懐かないと言われている。それなのに魔物の子供はすっかりティナに懐いていると、ひと目でわかったのだ。

「この短い時間で随分懐かれてんじゃねぇか。流石はティナってことか?」

 魔物の子供がティナに懐いたのはきっと、彼女が元聖女だからかもしれないとモルガンは推理した。

「魔物が凶暴になるのは瘴気を浴び続けているから、という説がありますし。瘴気が抜けたコイツは魔物に似ている子犬なのかもしれませんね」

 成績優秀だったトールは魔物についても詳しかったようだ。
 ティナはずっと「魔物は人に害を与える存在」だと神殿で教えられてきた。その教え自体が間違っているかもしれないとは、考えもしなかったのだ。

「じゃあ、私が一緒にいて<浄化>し続けていたら……」

「うん。多分コイツは凶暴化しないんじゃないかな」

 明確に証明された訳でなく、仮説だとわかっていても、ティナはトールの言葉に安心する。トールの声には人を落ち着かせる力があるのかもしれない。

「何だか変な気配がするんだけど……あら?」

 アネタを寝かしつけていたイロナがテントから出てきた。
 勘が鋭いイロナは、魔物の子供の気配を感じ取ったらしい。
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