月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

聖騎士

 多忙で大神殿を留守がちなオスカリウスであったが、彼は常にクリスティナの身を案じ、可愛がっていた。
 時々垣間見える不安そうな瞳もきっと、王妃になることへの不安なのだろうと思っていた──いや、思い込んでいたのだ。

 オスカリウスは自分の浅慮に後悔する。どうしてクリスティナをもっと慮らなかったのか、と。

 初めはその魔力量や、聖女としての素質が惜しくて強引に神殿入りとした。しかし、クリスティナと共に過ごすうちに情が湧いてしまったのだ。まるで本当の孫娘のような親愛の情が。

 クリスティナが落ち着き、自身も多忙だったため、彼女を他の神官に任せてしまったのが間違いだった。

 王室との関係を配慮する余り、クリスティナの気持ちを蔑ろにしていたことに気付かなかった自分の至らなさと、クリスティナの血が滲むような努力を踏みにじったバカ王子に、オスカリウスは腸が煮えくり返って仕方がない。

 そしてクリスティナが──代々聖女がその身を削ってまで大切にしてきた、その聖宝を、卑しい身に纏わせ、穢したこの少女が、オスカリウスは絶対に許せなかった。

「……あ、ぅ……あ、あ、あ……っ、ゆ、許し……っ!!」

 広い神殿内を満たすほどの、濃厚な殺気に、アンネマリーは恐怖で顔がぐちゃぐちゃになる。ちなみにフレードリクはとうの昔に気絶してしまっている。
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