月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

過去1

子爵家の令嬢であったトールの母は、王家に是非、と望まれるほどの美貌の持ち主であった。

 しかし、身分が低い子爵家の出身だったことと、強い権力を持つ公爵家の圧力もあり、正妃ではなく側妃として迎え入れられことになる。

 正妃となった公爵家令嬢からのささやかな嫌がらせがあったものの、側妃は比較的平和な王宮生活を送っていたのだが、そんな平和な生活もトールが生まれたことで一変してしまう。

 正妃が第一王子を出産してからしばらく、側妃も子供を身籠ったが、側妃の子供には王位継承権が与えられないこともあり、第一王子が王位を継ぐのだと、継承権を巡る争いは起こらないだろうと、誰もが安堵していた。

 ──そうして十ヶ月後、第二王子となるトールがこの世に生を受けたのだが……。

「……な……っ! 何ぃ?! <金眼>、だと……っ?!」

 よりにもよって、<金眼>──<王の目>とも呼ばれる、王者の素質を持つ金色の目をした子供が、側妃から生まれたのだ。
 出産に立ち会った医師から、そのことを報告された国王は大喜びだったという。

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