月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「恐れながら、私と殿下の婚約は陛下が決められたこと。その決定を殿下が勝手に覆して宜しいのですか?」

 クリスティナの凛とした声に、フレードリク以外の中庭にいる誰もが聞き惚れ、生徒達の意識は一瞬で彼女に惹きつけられる。

「父上には私からちゃんと説明する。父上もお前が下賤な女だと知れば納得してくださるだろう」

「左様ですか。では、次に<聖女>の資格剥奪ですが、大神殿からの許可は取られましたか? 大神殿は説得でどうにかなる相手ではございませんが」

「ふんっ! それならば問題ない!! 偽物のお前を追い出し、新たな<聖女>を連れていけば、神殿も諸手を挙げて喜ぶだろう!!」

 新たな聖女と聞いた生徒達から、動揺する声と気配が伝わってくる。

「新しい<聖女>だって?!」

「<稀代の聖女>といわれるクリスティナ様の代わり……?!」

「クリスティナ様の代わりなんてそう簡単に見つかるはずが……」

 生徒達が困惑する中、フレードリクは得意げに高々と告げる。

「私は<聖女>として相応しい人を見付けた! それはベイエル男爵家のアンネマリー嬢だ!!」

 フレードリクが名前を告げると、その女生徒アンネマリー・ベイエルが姿を現した。
 煌めく金色の髪に海のような蒼い瞳のアンネマリーは、少し前に特待生としてブレンドレル魔法学院に入学して来た令嬢だ。
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