月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「<聖女>の資格を剥奪されたお前は王妃候補でもないただの孤児に過ぎない! その<聖女>の証である腕輪を返還し、元の賤しい身分に戻るがいい!!」

 <聖女>として選ばれたクリスティナは膨大な魔力を持っていた。その力に目をつけた王室は、その優秀な血を王家に残そうと画策し、半ば強引にクリスティナを第一王子の婚約者に指名したのだ。

「そもそもお前は学院にもろくに来ていなかったではないか!! 勉学に励まず授業をサボり、賤しい者達と遊び歩くなど、このブレンドレル魔法学院の恥だ!! さっさとこの誉れあるブレンドレル魔法学院から立ち去れ!!」

 この国の王子であるフレードリクの大声と剣幕に、生徒達が気付き何事かと集まって来た。
 更に、王子が婚約者である<聖女>を糾弾していると噂が広がり、その噂を聞きつけた生徒達が集まった中庭は、普段の閑散とした光景からは想像もできないほど生徒達でひしめきあっている。

 生徒達が固唾を飲んで見守っている中、王子からの罵倒をずっと無言で聞いていたクリスティナが、ゆっくりと口を開いた。

「……発言の許可をいただきたく存じます」

「許可しよう。しかし言い訳はするな! お前に拒否権はない!!」

 フレードリクにクリスティナは一礼すると、顔を上げ、姿勢を正し、真っ直ぐにフレードリクを見据えた。
 その堂々とした姿には、未来の王妃になるべく、厳しい教育を受けてきた者としての威厳があった。
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