月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

記憶


 ティナはベッドに寝っ転がったままトールのことを考える。

 トールは幼いティナの心を救うために記憶を消してくれた──でもトール本人はどうだったのだろう、と。

 彼だって大人びていたとはいえ、幼い子供だったのだ。それにティナが眠っている間にヴァルナルたちとの別れや追っ手からの逃亡を、たった一人で経験したのだ。きっとその記憶は悲惨に違いない、とティナは思う。

(つい腹が立ってトールを責めちゃったけど……。やり過ぎだったよね……)

 ティナはトールと別れた時のことを思い出して後悔した。
 つい感情的になってしまったが、トールはトールで必死に頑張ってくれたのだ。そのことに関しては本当に感謝している。

(でもなぁ……だからって過去に引きずられたままなのは良くないし……私に記憶があれば、トールも一人で苦しまなくて済むのに……)

 ティナはトールのために記憶を取り戻す方法はないかと考えた。そうすればトールが抱え込んでいる苦しみを共有し寄り添えるのに、と思ったのだ。

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