月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。


 本屋で精霊関係の本を購入したティナは宿に戻ると、そっと音を立てないように階段を登り、静かに部屋の扉を開けた。

 もしかして精霊が起きてレリーフから出ているかもしれない、と思ったティナだったが、残念ながら部屋に精霊の姿はなかった。

 早々に帰るつもりが、美しい街並みと自然に魅了されたティナは、あちこちと寄り道をしてしまい、帰って来るのがすっかり遅くなってしまったのだ。
 すでに精霊はどこかへ行ってしまったかもしれない。

「ねぇアウルム。精霊さんはまだレリーフの中かな?」

『うーんとねー。寝てるみたいだよー』

「本当? よかった」

 まだ精霊が眠っていると聞いたティナは、今度こそ機会を逃さないようにと、今日は部屋に篭ることにした。

「私は食事まで本を読んでいるけど、アウルムは?」

『ぼくはねるよー。ごはんになったら起きるよー』

 アウルムも一緒に街を歩き回ったからか、少し疲れたようだ。
 ベッドの隅の方で丸くなったアウルムは、早々に眠ってしまう。

 ティナはアウルムが眠ったのを見届けると、買って来た本を魔法鞄から取り出した。
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