月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「それに僕の出身はクロンクヴィストだよ? ティナと一緒に帰省するってことで良いんじゃないかな」

「え? まあ、そう言われればそうかもしれないけど……って、いやいやいや!」

 そう言えばトールはクロンクヴィストからの留学生だったな、と思い出したティナは一瞬、トールの提案に納得しそうになってしまう。
 だけど治安がマシとはいえ、クロンクヴィストまでの道のりは距離があるし、魔物と遭遇する可能性もゼロじゃない。何よりある程度の強さと体力も必要となるのだ。

「どうして? 俺、こう見えても結構鍛えてるよ?」

 確かにトールは背が高くて手足も長く、バランスが良い体格をしている。
 それにさっき抱きしめられた時に触れた、トールの身体はがっしりしていたし、筋肉が程よくついていた。きっと腹筋も割れていて──……と想像し、ティナの羞恥心が限界を突破した。

(うわーーーーっ!! もう無理ムリむりぃーーーーっ!!)

 恋愛経験がないティナは恥ずかしさのあまりトールの顔を見ることが出来ず、心が落ち着くまでしばらく時間を要したのだった。
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