月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

ルシオラ


 ティナを求めて<迷いの森>に足を踏み入れたトールは、ルシオラに案内されながら森の奥へと進んでいく。

 森の中は人の手がほとんど入っておらず、自然がそのまま残されている。
 それは逆にいうと、進むべき道がないために移動にかなり時間がかかるということだ。

 トールが森の中に足を踏み入れてから、すでに十日が経過していた。
 <迷いの森>は広大で、ルシオラが案内してくれなければ、今自分がどこにいるのかわからず、その名の通り迷っていただろう。

 日が昇っているうちに進めるだけ進み、日が暮れると早々に野営をする。

 今日も馬を走らせてかなりの距離を進んだトールは、巨大な樹の根元にもたれながら空を見上げた。

 木々の間から見える星空は圧巻で、まるで自分が違う世界に取り残されてような錯覚を覚える。
 月は綺麗な満月で、月の光が森の中を優しく照らしている。

 ルシオラは月の光の中でくるくると回っていて、とても機嫌が良さそうに見える。
 昔からルシオラは満月になると動きが活発になり、こうしてくるくると踊るように飛び回るのだ。

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