月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「両親は月下草が欲しかったみたいでね。依頼をこなしながら世界中を探していたんだって。だから私も月下草の自生地を見付けたいの」

 月下草の種のことや、本当は栽培する場所探しも兼ねているというのは、今はトールに伝えない方が良いとティナは判断する。

「月下草……なるほど、そうだったんだ。わかった、俺も一緒に探すよ」

「え! でも、どれだけ時間が掛かるかわからないよ? 危険な所にも行くよ?」

「だったら尚更、俺も一緒に行く。そんな危険な場所にティナを絶対送り出したくないし、それに俺は君を守りたいって言っただろ?」

 てっきりトールとはクロンクヴィストで別れると思っていたので、月花草探しまで付き合ってくれるとは……と、ティナは心の中で驚愕する。

「……有難う。トールが一緒にいてくれるとすごく嬉しい」

 ティナは驚きを隠し、トールに向かってにっこりと、花が咲くように微笑んだ。

「──っ! ……そ、そう……? なら良かったけど……っ」

 トールが珍しく戸惑っている。よく見ると顔も真っ赤に染まっており、ティナはようやく一矢報いることが出来たと、トールの反応に満足した。
 ずっとトールに翻弄されっぱなしだったので、たまには素直になって仕返ししてやろうと思ったのだ。

 それから二人はクロンクヴィストまでのルートを打ち合わせ、明日の出発に備えるのだった。
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