月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「ほら、乗りな。出発するぞ」

「はい!」

 モルガンの声を聞いて、それぞれが馬車に乗り込んだ。

 ティナとイロナ、アネタが幌馬車の中で、トールとモルガンは御者台だ。馬はモルガンが操作するらしい。

 馬車がゆっくりと動き出し、城壁へと向かう。

 セーデルルンド王国の王都から出て街道を進めば、クロンクヴィストの国境まで馬車だと三週間ほどで到着するだろう。
 途中の宿場町で宿に泊まったり、森で野営をすることもあるだろうが、街道が整備されているので比較的楽に移動できるルートとなっている。

 今までティナが移動する時はいつも窓が小さい頑丈な馬車に乗せられ、回りを聖騎士団に取り囲まれていた。
 聖女を守るための措置だと理解しているが、それでも毎回ティナは息が詰まりそうだったのだ。

 しかし今ティナが乗っているのは開放的な幌馬車で、可愛い母娘が同乗している。しかもとても頼りになるトールと一緒なのだと思うと、嫌でも期待が膨らんでいく。

 この国から出て、両親が巡った場所を辿り、月下草の栽培場所を見つけるための冒険が始まる──!

 ティナはこれまでの旅とは比べ物にならないほど、心も身体も軽くなっているのを実感した。
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