月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 ステュムパリデスは、毒を巻き散らす怪鳥で、青銅の嘴と羽根を持つ。森に棲み、群れで人を襲い田畑を荒らす迷惑な魔物だ。そしてシェロブは巨大な体躯に堅い外骨格と堅い糸、毒針を持つ蜘蛛の魔物である。

「確か両方ともCランクの魔物ですね。しかし、どうしてこんなところにそんな魔物が……」

 この辺りにはいるはずがない魔物の出現に、トールが首を傾げている。

「どうやら北の方角にある大森林から流れて来たんじゃないかって噂だけどな」

 北の方角にある森と聞き、ティナはそう言えば、と思い出す。

「北の大森林……『黒い森』ですね」

 ティナが聖女になり、初めて浄化した場所が『黒い森』であった。
 そこは鬱蒼と生い茂った木々が光を遮り、常に暗くて不気味だったとティナは記憶している。

(ああ、あそこを浄化してもう七年経つんだっけ……。早いなぁ……)

 七年前、ティナが『黒い森』を浄化するために訪れた時、襲って来たステュムパリデスを聖騎士たちが討伐したことがあった。
 毒持ちの魔物から素材を得ることは難しいので、通常であれば討伐後は燃やしてしまうのだが、好奇心旺盛なティナはステュムパリデスを試しに浄化してみたのだ。
 すると、毒は綺麗サッパリと無くなり、青銅の嘴と羽根を素材として手に入れることが出来た。更にその肉は滋味溢れる美味しさで、聖騎士たちが大喜びで食べていたことを思い出す。
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