辣腕海運王は政略妻を容赦なく抱き愛でる【極上四天王シリーズ】
 政略結婚相手は来なかったが、今までいたことのない恋人同士の疑似体験をしているみたいだ。

 力強いコウさんの手につながれて泳ぐと安心する。

 ライフジャケットを着ているせいもあるが、溺れる心配がなく、足を軽く動かすだけで好きなところへ行けてとても楽しい。

 しばらく海の中で過ごしたのち、コウさんが腕時計を見て休憩しようと言い、私たちはポンツーンに上がった。

「あー楽しかった!」

 ライフジャケットをはずして、開口一番出た言葉だ。

 一時間近くもサンゴ礁や魚を見ていたことに驚いた。ひとりでシュノーケリングをしていたら、一緒に感動を味わえないし、長く海の中にいられなかったはず。

「コウさんはどうでしたか? 私がいたから楽しめなかった……?」

「楽しかったよ。ふたりの方がいろいろ話せて、あっという間に時間が経った」

 同じことを考えていたとわかってホッとする。

「腹が減ったな。食べに行こうか」

「はい。おなかが鳴りそうです」

 胃の辺りを手で押さえると、彼は少し日に焼けた顔で笑った。

「Tシャツがびしょびしょで不快だろう? 羽織るものは持ってきた?」

「はい。持ってきました」

 私たちは荷物を置いてある場所へ行き、トートバッグの中からタオルと薄手のパーカーを取り出した。

 パーカーを着るには、肌にピタッと密着しているこのTシャツを脱がなくてはならない。

< 59 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop