恋の味ってどんなの?

第9話

 藍里は担架に乗って救急車に運ばれた。清太郎も一緒である。後で一緒に理生が藍里のカバンを持って追いかけてきた。
「……理生さん、お店は?」
「大丈夫よ。昔のバイトの子達招集してなんとかきてもらった。前から頼んでいたけど一気に今日は入れますって。偶然にも程があるわ。あなたはラッキーよ」
 と清太郎に荷物を渡して藍里の右手を握った。

「気にしないで、少しでも早く呼べていたらあなたに不慣れなことをさせなかったのに、ごめんなさいね。でも制服似合ってたから。回復したら少しずつ私のもとでフロアで働こうね」
 とたたみかけるように理生は話しかけた。藍里は苦笑いして握り返す。

「そろそろよろしいでしょうか。ご家族の方ですか」
「職場の先輩です、でこの男の子は……」
 救急隊員に対して理生はなんと言っていいかわからず声が出ない。すると清太郎が
「えっと、藍里の彼……」
 と言いかけたところであった。

「藍里ちゃーん!!!!!」
 とやってきたのは時雨であった。

「おたくは……」
「藍里ちゃんの……えっと、その、なんというか……あ、さくらさん……藍里さんのお母様の代わりにやってきました。今まだ寝てるんです……」
「寝てる……? 母親が」
 救急隊員はあっけに取られているようだがもう行くとのことで時雨は理生の目の前で救急車に乗り込んだ。清太郎もあっけに取られている。救急車は発車した中で藍里はさくらがまだ寝ているのかと彼女もなんとも言えないのだが、今清太郎と時雨というこの組み合わせの中一緒にいるのがさらに……。

「さくらさん、少し前にまた寝ちゃって。明日からまた仕事でしょ。寝ちゃうと起きないし、何度も叩き起こしたけども起きなかったから枕元にメモを置いておいた……」
「マジかよ、娘倒れたのに寝るような人だっけ」
「……藍里ちゃん、彼は誰? 制服からすると一緒の高校の」
 藍里は答えようとしたが

「彼氏です」
 と思ってもいない回答に声が出なくなった。藍里は首を横に振ろうとしたが隊員が押さえていたため振れなかった。
「それは驚きだなぁ……藍里ちゃんここにきてからすぐ彼氏出来るなんて、さくらさんに似て美人さんだからそうだよね」
 時雨もそんなことを言い、こないだの藍里ちゃんも、の「も」の意味深さに拍車をかける。

「……彼氏ってのは冗談ですけどあなたこそ誰ですか」
 清太郎がさらっというと時雨は笑った。
「冗談きついよ。そうだよね、彼氏じゃないよね。あ、僕は藍里ちゃんの家に住まわせてもらってます家政夫です。一応さくらさんの彼氏っていうテイですけど」
「ヒモじゃん」
「君、言うねぇ~おもしいろいよ」
「さっき電話でも言ったけど宮部清太郎、藍里とは幼馴染でさくらさんに言えばすぐわかると思う」
「あぁ、そうなのか……幼馴染とこうして偶然に会うのもすごいね、藍里ちゃん」
 あっという間にこの空間は和んだようにも思えたが……

「恐れ入ります……患者さんの名前とか住所とかわかりましたらご記入ください」
 と救急隊員が間に入って時雨と清太郎はハイ、と冷静になった。時雨が記入用紙を手にして書き出す。

「名前は、百田藍里……生年月日は……えっと」
「そう言えば時雨くん、保険証はある?」
「あるよ。一応さくらさんの財布の中にあるって前聞いたことがあって」
「そこに載ってるから」
 と時雨がさくらの財布を取り出そうとすると、清太郎が記入用紙を取り上げる。
「俺と同じ生まれで、1月11日生まれ。身長、体重……」
「……それは私が書くよ。恥ずかしい」
「恥ずかしいもクソもないだろ、書かないとこれからの診察に支障出るだろ」
「わかったよ……」

 と藍里は恥ずかしそうに答えてそれを清太郎は書く。時雨はさくらの財布を握ったまま居た堪れない顔をしている。財布から保険証を取り出して、あるよとアピールはした。すると時雨のスマホに着信が。
「あ、さくらさんだ」
「ママ……」
「ここはスマホ大丈夫ですか。彼女の母親からで」
 と隊員さんに聞き、やむおえない状況だと許可をくれたのだが隊員からしたらこの時雨とやらは家族でなかったのかという冷ややかな目線を送っているようにしか藍里は見ていた。

「さくらさん、はい。ごめん驚かせちゃって。そうだよ、藍里ちゃんがバイト中に倒れて。頭も打ったんだって。ごめん財布持ってる……あ、免許証」
 そう、さくらの財布の中に車の免許証も入ってたのだった。あっちゃーという顔をして時雨は電話を切った。

「さくらさん、タクシーで来るって。僕としたことが……ごめんね」
「ううん、ありがとう」
 清太郎は藍里をじっと見てた。とりあえず時雨がさくらの恋人であることであるのは理解できたようではあるが。救急車は病院に着いた。
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