カタルシス
「えっ!?シキュウとランソウをゼンテキシュツ…!?」
「…ああ、女の腹の中の子宮と卵巣だ…」
ああ、絵里!…絵里!絵里!
「じゃあ、絵里はもう…!」
僕を避けてたその理由は…、
「そうだ…。あいつはもう子供を産むことができない…」
…君の優しさだったのか…。
「…ああっ…!」
僕は頭を抱え、声にならない叫びを上げた…。
「その時、病院で苦しむ西野を見守ったのは俺だ、お前じゃない。だがな…」
突如石田が僕の胸ぐらを掴んだ。
「むかつくのはなあ、あいつが俺の前では健気に微笑うのに、癌に苦しみながらお前の事をくっちゃべる時だけ泣いてたってことなんだよお!その時悟ったんだ。あいつを誰よりも傷つけてるのがお前だって事をな。だから俺、心の中で誓ったんだよ。お前からあいつを守るってなあ!」
石田が僕を殴った。褒めるわけじゃないが、殴り慣れてる殴り方だ。頭の中がキーンと鳴った。だが、
「正義の味方ぶってんじゃねえよ!」
今度は僕が殴った。石田に比べればへなちょこのテレフォンパンチだったが、石田は何故かよけなかった。
「駄目だこりゃ…」
絵里が呆れ果てた。
するとその時、石田と授業の待ち合わせをしていたらしい絵里が騒ぎに気づき、
「やめて!もうやめて!」
「私、ダメな女なの…。悠人君にもう逢うべきじゃない、逢っちゃいけないっていうのわかってたのに、ここに来ちゃった…。パイロットになりたかった石田君まで巻き込んで…。石田君はね、航空大学へ進んでパイロットになりたいっていう子供の頃からの夢を捨ててまで私と一緒に北大に来てくれたの。だからもう心配しないで。悠人君が元気なのわかったから安心した。もういいの…。私のことは忘れて。ねっ…」
「そういうことだ。西野とちちくりたいと思って北大進んだ脳内お花畑のお前に、西野は守れない。…俺が守る。お前は引っ込んでろ」
「絵里の責任を取るのはお前じゃない、俺だ…」
「なんだと…」
石田がまた僕を殴った。軽く意識を失いかけたが、アドレナリンが分泌されているのか痛みは感じなかった。
「俺なんだよ!」
僕は石田に飛びかかり、後ろのテーブルが倒れ、僕と石田は組み合ったまま転んでもつれ合った。
「もうやめて!」
「…おいおい!どうした!?」
周りにいた学生達が喧嘩を止めにやって来て僕らを引き離す。
「お前は正義の味方じゃねえし、俺だって悪人じゃねえよ!」
「とにかくお前はもう絵里に近づくんじゃねえ!わかったな!」
石田はゆっくり立ち上がり心配する絵里の手を掴むと引きずるように強引に立ち去った。
「…こりゃ、一筋縄じゃいかないわね…ほら…」
そう言いながら、土屋は唇と鼻から血が出てる僕にハンカチを渡した。
こうして時は過ぎ、金葉が北大の銀杏並木を彩る晩秋、絵里と石田がメインストリートを歩いていると、絵里がふいに後ろからふいに肩を叩かれた。
「…またお前か、だからぶっ殺すって…!…って、あれ!?」
秋宮の仕業だと思って慌ててその手を強く掴み、拳を振り上げて威嚇しようとした石田は、
「…痛いっ…!…ジェントルマンなんでしょ!?離しなさいよ!」
驚いた。秋宮の仕業だと思って絵里の肩を後ろから手を叩いたのは秋宮ではなく土屋だった。秋宮がそばにいる様子はない…。
「…ああ、すまん…」
うろたえる石田に、
「…絵里ちゃん、まだお友達いないでしょ…?私と友達にならない…?警護官とばかり一緒にいても大学入った意味ないよ。女同士でしかわかりあえない事もあるだろうし、一度話そ?」
「誰があのガキのツレなんかと!?」
石田は叫んだが、
「…石田くん、いいの!」
絵里は石田を遮った。
「じゃあ私たちは女子会するから…。あなたとは立会人どうしで、そのうち話し合いましょ、ジェントルマン…」
「…石田くん、また今度…」
呆然とする石田を後目に志帆と絵里は去っていった。
それから徐々に絵里が志帆と二人で授業を受けたり、絵里一人で授業を受けるようになる事が多くなっていった。
志帆から簡単に経緯を聞いていた僕が志帆に感謝すると、
「…さあ?あの子も『姫と囲い』ごっこばっかりやってるのも流石に飽きたんでしょ?それにお互い同性の友達いなかったから需要と供給がマッチしただけよ…。けどあの子は心に傷抱えて心療内科に通ってるぐらいだからしばらくほっといてあげて…」
「えっ?心療内科って…」
「時間にしか解決できない問題も世の中にはあるってことよ…」
と、志帆はそしらぬ風だった。
それから札幌に初雪が降ったとある日、絵里が一人で歩いている時、僕は覚悟を決め、勇気を振り絞って絵里に再びコンタクトを試みた。
「これ一回きりでいい。二人で話そう…」
「…」
絵里は黙って頷いた。
それからしばらくして、僕らは喫茶店で二人むかいあっていた。
「高校の時、なんで連絡よこさなくなっちゃったんだ…?…子供を産めなくなるとか、そんなことで、俺がお前のこと、好きじゃなくなるとでも思ってたのか…?」
そう言うつもりで逢ったけど、絵空事のようなことを言う自分がそらぞらしくて、絵里はただただ痛々しかった。
「…そういうわけじゃないけど、心配かけたくなくて…」
絵里は言葉を濁すばかりだったから、
「俺じゃなくて、あの石田って男の事好きになったのか…?」
少し意地悪と疑心暗鬼になってしまったが、
「違うの、悠人君、なにもわかってない…」
「…わかってないってどういうことだよ…?」
「だって、私、もう女じゃなくなっちゃんだよ!悠人君に逢える資格なんてないじゃない!?」
「資格がないわけあるかよ!」
「私苦しいの!悠人君とずっと一緒にいたいけど、悠人君と一緒にいると苦しいの!」
絵里は涙を流していた。
「…ずっと傍にいるよ…」
愛する女性への義務を果たそうと思った僕に、絵里は急にヒステリックな嘲笑い声を上げた。
「…どうしたんだよ?」
「…ああ、志帆さんから聴いてないのね…。憶えてる?わたしが昔転校するって言った時、『理由訊いてくれないんだね?』って言ったの…」
「…確か…言ったな…」
「教えてあげるわ。わたしの病名は子宮頸がんで、子宮頸がんの原因は性行為が原因でしか伝染らない!そして悠人君、わたしはね…中学生の時…レイプされたのよ!でも、『両性の同意だろ?』って泣き寝入り…。それが原因で転校したのよ…!そして子宮頸がんの原因のヒトパピローマウイルスを伝染されて、癌になって卵巣まで転移して…!私はもう女じゃなくなったの!…もう生きているのが嫌…!死にたい…」
目の前が真っ暗になり、どす黒いなにかが僕の体内に入っていくような気がした…。
「誰だ…?誰がお前をレイプしたんだ…?」
憎しみが言葉を吐き出す。
「…あなたの大好きだった熊阪先生よ…」
僕の中で美しい思い出が走馬灯になって甦り、ガラスのように砕けた。
「…そうか、わかった…」
「悠人君、どこへいくのよ!?」
「精神科ってさ、偽善だよな…薬で心の傷を誤魔化したって大本の原因が解決しないとなんにもならないのにひたすら向精神薬を人生の被害者に湯水のように与え続けて薬漬けにするんだぜ…俺ならそんな真似はしない…。つまり草刈りみたいなもんで根を刈らないといくら草を刈っても雑草がまた生えてくるんだよ…つまり基を断たなきゃ…」
「悠人君…?」
「…また連絡する…」
僕はこの時妙に冷静だったのを覚えている…。
そうやって北大から姿を眩ましてからおよそ一ヶ月、一面を雪に覆われ北大は銀の世界に瞬いていた。
そんなある日の事だった…。
秋宮悠人―絵里、久しぶり、ちょっと逢えるか?
絵里のスマホに僕はLINEを送ったんだ…。
やがて雪のように蒼白な表情で、僕は絵里の待つ喫茶店へと現れた。
「…ようやっと雑草を刈り終えたよ。根を断った。絵里、安心しろ…。熊阪は死んだ…」
「まさか…!殺したの…!?」
「…ああ、定年して一人で暮らしてたから足がつかなくてまだ僕はここにいるけど、そのうち、あいつの死体が見つかって、あいつを探しまわって学校に電話したりしてた僕はすぐに捕まるよ…」
「ああ…!わたしは生ける死体になって、そうしてあなたまで破滅させてしまった…!もういや!もう死にたい!いやっ、本当に死ぬわ、わたし!」
絵里は錯乱して喚いた。
「…いいよ、わかった。…一緒に死のう…」
その叫びに、僕は静かに応えた。
「えっ…?」
「僕はどうせ捕まるんだ。絵里と一緒に死ぬのが愛の証明なら僕は喜んでそうするよ…」
「悠人君…、でもどうやって…?」
「…ああ、アテがあるんだ…」
その日の夜、僕は標本や樹木に囲まれた、生気のしない、まるで研究室のような志帆の家で事の顛末を相談した。
「…あちゃあ…、やっちゃったか…」
「それで、どうしても確実に安らかに死ねる薬がほしいんだ!」
「…」
志帆は暫く無言でいたが、
「…しょうがないわね…」
そう言うと、押し入れの奥にある大きな金庫を開け、中から粉末の入った瓶と、ありきたりな薬のカプセルを二粒取り出した。
「…なんだよ、これ…」
「トリカブトの根を粉末化したのをオーバードーズした睡眠薬と混ぜて、それをカプセルに詰めたもの…。トリカブトに含まれるアルカロイドは2㎎~6㎎で致死量に達する。このカプセルを飲めば睡眠薬の作用ですぐに眠くなって、気づいた頃にはトリカブトの毒で安らかにこの世からさよならできるわ…」
「でも、トリカブトなんてどうやって…?それにお前も精神科に通ってるのか…?」
「…ああ、女の腹の中の子宮と卵巣だ…」
ああ、絵里!…絵里!絵里!
「じゃあ、絵里はもう…!」
僕を避けてたその理由は…、
「そうだ…。あいつはもう子供を産むことができない…」
…君の優しさだったのか…。
「…ああっ…!」
僕は頭を抱え、声にならない叫びを上げた…。
「その時、病院で苦しむ西野を見守ったのは俺だ、お前じゃない。だがな…」
突如石田が僕の胸ぐらを掴んだ。
「むかつくのはなあ、あいつが俺の前では健気に微笑うのに、癌に苦しみながらお前の事をくっちゃべる時だけ泣いてたってことなんだよお!その時悟ったんだ。あいつを誰よりも傷つけてるのがお前だって事をな。だから俺、心の中で誓ったんだよ。お前からあいつを守るってなあ!」
石田が僕を殴った。褒めるわけじゃないが、殴り慣れてる殴り方だ。頭の中がキーンと鳴った。だが、
「正義の味方ぶってんじゃねえよ!」
今度は僕が殴った。石田に比べればへなちょこのテレフォンパンチだったが、石田は何故かよけなかった。
「駄目だこりゃ…」
絵里が呆れ果てた。
するとその時、石田と授業の待ち合わせをしていたらしい絵里が騒ぎに気づき、
「やめて!もうやめて!」
「私、ダメな女なの…。悠人君にもう逢うべきじゃない、逢っちゃいけないっていうのわかってたのに、ここに来ちゃった…。パイロットになりたかった石田君まで巻き込んで…。石田君はね、航空大学へ進んでパイロットになりたいっていう子供の頃からの夢を捨ててまで私と一緒に北大に来てくれたの。だからもう心配しないで。悠人君が元気なのわかったから安心した。もういいの…。私のことは忘れて。ねっ…」
「そういうことだ。西野とちちくりたいと思って北大進んだ脳内お花畑のお前に、西野は守れない。…俺が守る。お前は引っ込んでろ」
「絵里の責任を取るのはお前じゃない、俺だ…」
「なんだと…」
石田がまた僕を殴った。軽く意識を失いかけたが、アドレナリンが分泌されているのか痛みは感じなかった。
「俺なんだよ!」
僕は石田に飛びかかり、後ろのテーブルが倒れ、僕と石田は組み合ったまま転んでもつれ合った。
「もうやめて!」
「…おいおい!どうした!?」
周りにいた学生達が喧嘩を止めにやって来て僕らを引き離す。
「お前は正義の味方じゃねえし、俺だって悪人じゃねえよ!」
「とにかくお前はもう絵里に近づくんじゃねえ!わかったな!」
石田はゆっくり立ち上がり心配する絵里の手を掴むと引きずるように強引に立ち去った。
「…こりゃ、一筋縄じゃいかないわね…ほら…」
そう言いながら、土屋は唇と鼻から血が出てる僕にハンカチを渡した。
こうして時は過ぎ、金葉が北大の銀杏並木を彩る晩秋、絵里と石田がメインストリートを歩いていると、絵里がふいに後ろからふいに肩を叩かれた。
「…またお前か、だからぶっ殺すって…!…って、あれ!?」
秋宮の仕業だと思って慌ててその手を強く掴み、拳を振り上げて威嚇しようとした石田は、
「…痛いっ…!…ジェントルマンなんでしょ!?離しなさいよ!」
驚いた。秋宮の仕業だと思って絵里の肩を後ろから手を叩いたのは秋宮ではなく土屋だった。秋宮がそばにいる様子はない…。
「…ああ、すまん…」
うろたえる石田に、
「…絵里ちゃん、まだお友達いないでしょ…?私と友達にならない…?警護官とばかり一緒にいても大学入った意味ないよ。女同士でしかわかりあえない事もあるだろうし、一度話そ?」
「誰があのガキのツレなんかと!?」
石田は叫んだが、
「…石田くん、いいの!」
絵里は石田を遮った。
「じゃあ私たちは女子会するから…。あなたとは立会人どうしで、そのうち話し合いましょ、ジェントルマン…」
「…石田くん、また今度…」
呆然とする石田を後目に志帆と絵里は去っていった。
それから徐々に絵里が志帆と二人で授業を受けたり、絵里一人で授業を受けるようになる事が多くなっていった。
志帆から簡単に経緯を聞いていた僕が志帆に感謝すると、
「…さあ?あの子も『姫と囲い』ごっこばっかりやってるのも流石に飽きたんでしょ?それにお互い同性の友達いなかったから需要と供給がマッチしただけよ…。けどあの子は心に傷抱えて心療内科に通ってるぐらいだからしばらくほっといてあげて…」
「えっ?心療内科って…」
「時間にしか解決できない問題も世の中にはあるってことよ…」
と、志帆はそしらぬ風だった。
それから札幌に初雪が降ったとある日、絵里が一人で歩いている時、僕は覚悟を決め、勇気を振り絞って絵里に再びコンタクトを試みた。
「これ一回きりでいい。二人で話そう…」
「…」
絵里は黙って頷いた。
それからしばらくして、僕らは喫茶店で二人むかいあっていた。
「高校の時、なんで連絡よこさなくなっちゃったんだ…?…子供を産めなくなるとか、そんなことで、俺がお前のこと、好きじゃなくなるとでも思ってたのか…?」
そう言うつもりで逢ったけど、絵空事のようなことを言う自分がそらぞらしくて、絵里はただただ痛々しかった。
「…そういうわけじゃないけど、心配かけたくなくて…」
絵里は言葉を濁すばかりだったから、
「俺じゃなくて、あの石田って男の事好きになったのか…?」
少し意地悪と疑心暗鬼になってしまったが、
「違うの、悠人君、なにもわかってない…」
「…わかってないってどういうことだよ…?」
「だって、私、もう女じゃなくなっちゃんだよ!悠人君に逢える資格なんてないじゃない!?」
「資格がないわけあるかよ!」
「私苦しいの!悠人君とずっと一緒にいたいけど、悠人君と一緒にいると苦しいの!」
絵里は涙を流していた。
「…ずっと傍にいるよ…」
愛する女性への義務を果たそうと思った僕に、絵里は急にヒステリックな嘲笑い声を上げた。
「…どうしたんだよ?」
「…ああ、志帆さんから聴いてないのね…。憶えてる?わたしが昔転校するって言った時、『理由訊いてくれないんだね?』って言ったの…」
「…確か…言ったな…」
「教えてあげるわ。わたしの病名は子宮頸がんで、子宮頸がんの原因は性行為が原因でしか伝染らない!そして悠人君、わたしはね…中学生の時…レイプされたのよ!でも、『両性の同意だろ?』って泣き寝入り…。それが原因で転校したのよ…!そして子宮頸がんの原因のヒトパピローマウイルスを伝染されて、癌になって卵巣まで転移して…!私はもう女じゃなくなったの!…もう生きているのが嫌…!死にたい…」
目の前が真っ暗になり、どす黒いなにかが僕の体内に入っていくような気がした…。
「誰だ…?誰がお前をレイプしたんだ…?」
憎しみが言葉を吐き出す。
「…あなたの大好きだった熊阪先生よ…」
僕の中で美しい思い出が走馬灯になって甦り、ガラスのように砕けた。
「…そうか、わかった…」
「悠人君、どこへいくのよ!?」
「精神科ってさ、偽善だよな…薬で心の傷を誤魔化したって大本の原因が解決しないとなんにもならないのにひたすら向精神薬を人生の被害者に湯水のように与え続けて薬漬けにするんだぜ…俺ならそんな真似はしない…。つまり草刈りみたいなもんで根を刈らないといくら草を刈っても雑草がまた生えてくるんだよ…つまり基を断たなきゃ…」
「悠人君…?」
「…また連絡する…」
僕はこの時妙に冷静だったのを覚えている…。
そうやって北大から姿を眩ましてからおよそ一ヶ月、一面を雪に覆われ北大は銀の世界に瞬いていた。
そんなある日の事だった…。
秋宮悠人―絵里、久しぶり、ちょっと逢えるか?
絵里のスマホに僕はLINEを送ったんだ…。
やがて雪のように蒼白な表情で、僕は絵里の待つ喫茶店へと現れた。
「…ようやっと雑草を刈り終えたよ。根を断った。絵里、安心しろ…。熊阪は死んだ…」
「まさか…!殺したの…!?」
「…ああ、定年して一人で暮らしてたから足がつかなくてまだ僕はここにいるけど、そのうち、あいつの死体が見つかって、あいつを探しまわって学校に電話したりしてた僕はすぐに捕まるよ…」
「ああ…!わたしは生ける死体になって、そうしてあなたまで破滅させてしまった…!もういや!もう死にたい!いやっ、本当に死ぬわ、わたし!」
絵里は錯乱して喚いた。
「…いいよ、わかった。…一緒に死のう…」
その叫びに、僕は静かに応えた。
「えっ…?」
「僕はどうせ捕まるんだ。絵里と一緒に死ぬのが愛の証明なら僕は喜んでそうするよ…」
「悠人君…、でもどうやって…?」
「…ああ、アテがあるんだ…」
その日の夜、僕は標本や樹木に囲まれた、生気のしない、まるで研究室のような志帆の家で事の顛末を相談した。
「…あちゃあ…、やっちゃったか…」
「それで、どうしても確実に安らかに死ねる薬がほしいんだ!」
「…」
志帆は暫く無言でいたが、
「…しょうがないわね…」
そう言うと、押し入れの奥にある大きな金庫を開け、中から粉末の入った瓶と、ありきたりな薬のカプセルを二粒取り出した。
「…なんだよ、これ…」
「トリカブトの根を粉末化したのをオーバードーズした睡眠薬と混ぜて、それをカプセルに詰めたもの…。トリカブトに含まれるアルカロイドは2㎎~6㎎で致死量に達する。このカプセルを飲めば睡眠薬の作用ですぐに眠くなって、気づいた頃にはトリカブトの毒で安らかにこの世からさよならできるわ…」
「でも、トリカブトなんてどうやって…?それにお前も精神科に通ってるのか…?」