おじさんフラグが二本立ちました

ピンポーン


「あ、院長先生来られたよ」


「うん」


「母さん玄関に出てくるから
みよちゃんは箱詰めしてて」


「うん」


パタパタと部屋履きの音を立てて出て行った母を横目に

少し熱の取れたガトーショコラを箱に収めた


「みよちゃん、院長先生車で待ってるって」


「今行く」


扉から顔を出した母に返事をして
両手に荷物を抱えた


「いってらっしゃい」


「ん」


玄関に座ってブーツを履く私を見ながら


「あの、ね」


母が口篭った


「なに」


ブーツを履き終えて荷物を両手に持ったまま目線だけ母へ向けた


「もしか、お泊まりになるとかなら
母さんに連絡して?ほら、お父さんは
みよちゃんのことになると大変だから」


気を利かせているつもりなんだろうけど
院長が予定を変えるとは思えない


その提案に乗るかどうかを考えるより


「母親が高校生の娘にそんなこと言っても良い訳?」


姉と違って私のことは何とでもなると言われたようで瞬時に苛立ちが生まれた


「そんなつもりじゃ、ないのよ
母さんは、ただ・・・」


「物分かりの良い母親面しなくて良いから」


結局


冷たい言葉で切ることしかできなかった



・・・最悪、またやってしまった



そのままの勢いで玄関を出てきたけれど

我が家のガレージに止まる院長の車まで僅かな距離を走った所為で
あんなに頑張ったガトーショコラの箱は斜めになっていた


「みよちゃんっ」


慌てたように車から飛び出してきた院長は
荷物を持ったまま抱きついた私をそのまま抱きしめ返してくれた


「大丈夫、ゆっくり呼吸して」


「・・・ん」


「大丈夫、ゆっくりね」


「ありがと」


「そんなに急いで俺に会いたいとか
めちゃくちゃ嬉しいんだけど」


「・・・・・・フフ」


大丈夫、ちゃんと笑えた

乗り越えなければいけない過去も
院長が居てくれるだけで十分だ


「さぁ、お姫様」


エスコートされるまま助手席に乗り込む


両手に持っていた荷物は後部座席に置かれていて
ガトーショコラはシートベルトで動かないようにされていた


「俺、もうめちゃくちゃ期待しちゃうけど」


後部座席を覗き込んだ院長に


「あれは漬物だからね」


「お、と、そうなんだね」


ちゃんと牽制までして


「じゃあ漬物の前のランチは
俺にご馳走させてくださ〜い」


「渋々です」


「でたよ、ツン」


「「ハハ」」


またひとつ笑えたところで車は滑らかに動き出した


てっきりランチに行くのだと思っていたのに着いたのは院長のマンションで


「漬物は冷蔵庫じゃないかと思ってさ」


貰えるものにも気を使うらしい


「まだ少し温かいの
暖房入れないなら冷蔵庫じゃなくて
此処で良いと思うけど」


「え、温かい漬物とかあるんだ
了解、暖房もつけるつもりだったから
教えてくれて良かったよ」


「フフ、うん」


いかにものケーキ箱をテーブルの上に置いて

手を繋いでランチへと出かけた


< 128 / 137 >

この作品をシェア

pagetop