おじさんフラグが二本立ちました



「「乾杯」」


気後れするような豪華なランチは
隣県に出来たばかりの海沿いのリゾートホテルだった

とは言え三十分も走れば着く程度の距離


「疲れてない?」


「うん」


フレンチのコースはバレンタイン限定で
お皿のあちこちに♡が描かれている


「予約が大変だったんじゃない?」


「そこは大人のありとあらゆるコネを駆使したから平気」


「そのコネ、凄そうよね」


「みよちゃんを喜ばせるためなら
なんだってできるからね」


「ヤバい、みよ好かれすぎてる」


「ベタ惚れなので覚悟してね」


「フフ」


カップルシートに並んで座って
海を眺めながらのランチは


美味しくて楽しくて
あっという間に時間が過ぎていく


食後のデザートは私だけにベリーのタルトが運ばれてきた


しかも、紅茶に口をつけた途端
隣に座っていた院長のポケットから
手品みたいに小さな箱が現れるというサプライズつき


「・・・え」


カップを置くと、その手に小さな箱を乗せられた


白い小さな箱にピンクのリボンがかかったそれと院長の顔を視線が往復する


「プレゼント」


院長からはお試し期間の一ヶ月
ブランケットから始まって色んな物を貰っていた

でも、そのどれも“プレゼント”とは言わなかった

だから、これは特別なのだと思う


「開けて、いい?」


「うん」


手の中に収まる小さな箱のリボンを解く
現れたブランドロゴは院長の愛用している物


箱から出てきたのは丸いピンクのリングケースだった


「可愛い色」


箱は仕方ないにしても、リボンもリングケースの色もピンクにしたのは
私の好きな色だからだろう


その丸いケースの留め金を外して開く

中から淡いピンクの♡型の石がついた指輪が現れた


「可愛い」


「一度ハグさせて」


「うん」


リングケースを持ったまま院長の腕の中に収まる


頭の天辺に口付けた院長は


「お試しの終わりと二人のスタートが
バレンタインって素敵だなって
だから、俺の想いも込めてのプレゼント」


そう言って腕を解いた


私の手からリングケースを取ると
そこから指輪を抜き取った


迷わず院長の手が掴んだのは左手で
その薬指の♡のジェルネイルに「可愛い」と指で触れたあと


「俺の身体が朽ち果ててなくなっても
未来永劫、みよちゃんだけを想い続けるよ」


薬指に想いごと収まった


ピンク色の石を囲む脇石とリング自体も同じ石が並んでいて
その複雑なカットに光が集まってキラキラと輝いている


「みよちゃんに永遠を誓うよ」


「ありがとう」


「気に入って貰えた?」


「とっても」


「良かった」


「もしや、身体中のサイズを測られているとか恐怖しかないんですけど」


「いや、もうツンですか」


「もちろんです」


「フハハ、みよちゃん、ほんと大好き
俺もう、死んでも手離せないから」


「未来永劫なんでしょ」


「もちろん、さぁお姫様がデザートを食べたら大急ぎで家に戻るよ」


「え、せっかくの海なのに?」


「ダメダメ、今日は漬物が優先」


「「フハハ」」


結局のところ、左手の薬指を躊躇う間も無く
いつものように笑って終わったランチから


乗り心地の良い車の助手席で眠っているうちに戻っていた
















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