Cherry Blossoms〜甘美な恋の罠〜
番外編一 幸せな休日
その日は、公安も病院での仕事も休みの日だった。こんな日は珍しい。

桜士は部屋の掃除を終えた後、予定をどうするか考える。元々、これといった趣味があるわけでもなく、どこかに行きたいという欲もない。いつも仕事だけを生き甲斐にしていた。

「……とりあえず、本屋にでも行くか」

暇つぶしに何か本でも買いに行こうかと、桜士はマンションを出る。車で二十分のところに最近本屋ができたのだ。

広々とした店内は、平日のためかそれほど人の姿はなかった。ミステリー小説のコーナーを桜士は見ていたのだが、視界の端に見慣れた後ろ姿を見つけると、意識はすぐにそちらに向く。

「四月一日先生じゃないですか、こんにちは」

桜士が声をかけると、一花は少し驚いた様子で振り返るも、すぐにその顔には笑みが浮かぶ。

「本田先生、こんにちは」

休日に偶然好きな人と会える、これほど嬉しいことはない。しかも、普段は一花のそばにはヨハンがいるものの、彼女は一人のようで邪魔者がいないと桜士の頰が緩む。
< 39 / 46 >

この作品をシェア

pagetop