巫女見習いの私、悪魔に溺愛されたら何故か聖女になってしまいました。

最終話02

番外編 最終話02

 透き通るような鮮やかな青に、太陽の光がキラキラと降り注ぐ空は、まるで世界中が祝福しているような快晴だった。

 サロライネン王国の王太子と、貴族令嬢の結婚式が執り行われている王都の大神殿に、ラミロとカミロ、そしてクルトの姿があった。

 三人はそれぞれが所属している国の機関の正装を身に着けており、その華やかな艶姿に人々の視線が釘付けになっている。

「……ちょっと派手過ぎたか?」

「でもお互い正装だし」

「こういう行事以外に着る機会無いしねぇ」

 もっと地味な服装が良かったかと思いながら、彼らが正装しているのはひとえに、サラに今の自分を見て貰いたかったからだ。
 孤児院を出てから連絡をしていなかったし、どこで何をしているか心配をしていたであろうサラを、安心させてあげたかった、というのも理由の一つだった。

「クルト兄ちゃんかっけぇ!!」

「ラミロとカミロのローブも格好良いね!」

「いいなぁ! 俺もそんな服着たい!!」

 孤児院の子供たちが三人の周りに集まっていた。
 小さい子以外のほとんどの子がクルトたちを覚えていて、三人の姿を見た瞬間駆け寄ってきたのだ。

 子供たちは久しぶりに会えた兄たちに喜び、大はしゃぎしている。

 クルトたちが子供たちの相手をしていると、大神殿の扉が開き、今日の主役二人が現れた。

 ──白いドレスで着飾ったサラは、今まで見た誰よりも美しい。

 隣にいる王太子とよくお似合いで、微笑み合う二人は本当に幸せそうだ。

 そんな二人の姿に、クルトの胸の奥の傷跡が酷く疼く。

 勇気を出して来たものの、誰かのものになったサラを見るのは、正直辛い。
 だからといって、このままここで立ち止まっていても仕方がない、と思ったその時。

 祝福する人々に笑顔で答えていたサラの視線が、こちらを向いた、瞬間──……

「クルトっ!! ラミロっ!! カミロっ!!」

 三人の姿を目にとめたサラが、目に涙を浮かべながら駆け出した。

 ──そして両手を広げ、三人一緒に抱きしめる。

「皆んな来てくれたんだ!! どうしよう、すっごく嬉しいっ!!」

 遠目ではなく、間近で見たサラは本当に綺麗で、随分大人びていた。だけど三人を見る瞳は昔から何一つ変わらず、愛に溢れている。

 ──サラが自分をその瞳に映してくれた、ただそれだけで、クルトは今までの苦労がすべて報われたのだと実感する。

「サラ、結婚おめでとう!! すごく綺麗だよ!!」

「おめでとう!! 本当に綺麗!! 世界一の花嫁さんだね!!」

 ラミロとカミロは笑顔でサラに祝いの言葉と賛辞を贈る。
 双子の気持ちを知っているクルトにも、二人が心からそう思っていると伝わってきた。

「……結婚おめでとう。ドレスに髪の色が映えていて、本当に綺麗だ」

 だからクルトも精一杯、言葉を紡ぐ。これは紛れもない、彼の本心だった。

 そんなクルトの言葉に、サラは目を見開くと、それはもう嬉しそうに微笑んだ。

 サラが嬉しそうに笑うと、まるで世界中が一緒になって喜んでいるように、キラキラと輝いて見える。

「皆んなもすっごく格好良いよ! どこかで野垂れ死んでいるんじゃないかって心配してたから安心した!!」

「お前なぁ……」

「えー、ホント? 格好良い?」

「わーい! 褒められたー!」

 懐かしいやり取りに一瞬、昔に戻ったような錯覚を覚えたクルトは理解する。

 ──自分にとっての幸せは、すべてソリヤの街の、あの孤児院での思い出にあるのだと。

 巡る季節の中で、みんなと過ごした暖かい時間。
 そんなくすぐったいような、泣き出したくなるような幸せな時間を、ずっと一緒に過ごしたいと願っていた、けれど。

「──サラ?」

「あっ! エル! ごめんね、いきなりいなくなって!」

 突然駆け出したサラを心配したのだろう、王太子エデルトルートが三人の元へとやって来た。

「この三人は孤児院で一緒だった子たちだよ! こっちがラミロでこっちがカミロ、それでこれがクルト!」

 サラが自分たちを紹介してくれる姿はとても自慢気だ。
 そんなサラを微笑ましそうに見ていたエデルトルートは、視線を三人に向けると、にっこりと微笑んだ。

「初めまして、エデルトルート・ダールクヴィスト・サロライネンと申します。皆さんのご高名は聞き及んでおりますよ。お会い出来て光栄です」

「えっ!? エルは三人を知っていたの?!」

「そりゃ、これでも国の中枢を担う立場ですから。各国の有能な人材は把握していますよ。それにバリエンフェルト連邦国の『双璧』やフォルシアン共和国の『爆風』が残した武勇伝は数多くありますし、その強さは皆んなの憧れの的なんですよ」

 エデルトルートが三人を手放しで褒めちぎる。その様子に彼は本当に三人に敬意の念を抱いているようだ。

 クルトや双子たちは、自分たちに好意的なエデルトルートを意外に思う。

 いくら功績を上げたとしても、孤児院にいたというだけで蔑む者は多く、いつも妬みの対象にされていた。それなのに他国の、しかも王族が分け隔てなく公平な目で自分たちを評価してくれるとは思わなかったのだ。

「うわぁ……! すごい! すごいよ! 三人ともすっごく頑張ったんだね!!」

 サラはエデルトルートの説明を聞いて、すごいすごいと繰り返しながら、自分のことのように喜んでいる。

「うん、サラを驚かせようと思ってさ!」

「これでも魔法師団の期待の星なんだよ!」

 誇らしげに言う双子たちであったが、一番伝えたかったはずの「貴族になった」という言葉だけは、最後まで口に出すことはなかった。
 それは双子たちがサラを想うがゆえの、優しさだったのかもしれない。

 双子たちが頑張っている姿に励まされたクルトは、エデルトルートと正面から向き合った。

「エデルトルート殿下、サラは俺たちの大切な家族なんです。だからどうか──サラをよろしくお願いします」

「はい、もちろんです。私の全てを掛けて、サラを幸せにします」

 真剣なクルトの頼みに、エデルトルートは揺るぎない意志を以って答えてくれた。
 それだけで十分だと、彼にサラを託しても大丈夫だと、クルトはようやく確信する。

 ふと視線を感じれば、サラの綺麗な瞳がまっすぐ自分に向けられていて──。
 光が舞い散る風の中、サラが優しく微笑んだ。

 その瞳は確かに慈愛に満ちていて、サラは愚かだった自分に、昔と変わらない眼差しを向けてくれた。そのことに、どれだけ自分が救われたのか、彼女が気付くことは永遠にないだろう。

 今この瞬間、サラが自分だけを見てくれている──そのことが何よりも嬉しくて、クルトはやっと、心の底から笑うことが出来た。

 それはとても眩しくて、泣きたくなるほど切ない、綺麗な笑顔だった。



 クルトは師匠や双子たち、そしてサラと過ごした、孤児院の日々を思い出す。

 変わりゆく空の下、過ぎていく時間の中で、四人との絆と大切な思い出だけは、変わらないと信じられる。

 ならば、怖いものは何もない。

 いつかこの想いが思い出に変わったら、その時は数えきれないほどの昔話を、共に語り明かしたい。

「クルト! ほら行くよ!」

 サラの声に気が付けば、エデルトルートと双子たち、その先にシスがいて、皆んながクルトを待っていた。

 ──そうしてクルトは歩き出す。大切な人たちと繋がっているであろう、未来に向かって。









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