巫女見習いの私、悪魔に溺愛されたら何故か聖女になってしまいました。

 そんな私にエルは呆れたような顔をすると、「……はあ」と大きくため息を漏らす。


「貴女が全く意識していらっしゃらないという事はよく分かりました。どうやら相手の独りよがりみたいですね……」


 何の事か分からないけれど、エルは納得出来たみたい。……って、いやいや。一人で納得していないで私にも教えて欲しい。


「領主の子息であるテオバルト殿ですよ」


 エルの形の良い口から出た名前に「ああ! そう言えば!」と思い出す。そう言えば来たね。すっかり忘れていたよ。


「……本当に全く意識していらっしゃらないようですね」


 忘れっぽい私に呆れたのか、エルがジト目で見て来る。……何だか視線が痛い。


「ごめんごめん、すっかり忘れてたよ。あ、でも今度会う約束しているから! その時色々話を──……」


 ──聞いてくるから、と続きを言えないまま、私はその言葉を飲み込んだ。
 何故なら、私の目の前には凄く綺麗な瞳をしたエルの顔が、視界いっぱいに広がっていたからだ。


(えっ!? う、うわっ……!! 顔! 近い近い!! 美形のドアップ怖い!!)
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