ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「お願い。先代の振りをしてあげて」
「は?」

 粧子は大叔母に聞こえないように灯至に耳打ちした。吾郎とは先代の槙島家の当主のことで、灯至の祖父にあたる。かつて大叔母は先代槙島家の当主と恋に落ち、粧子の母である由乃を産んだ。

「大叔母に夢を見せてあげて。お願いよ……!!何でもするから……!!」

 粧子は吾郎とは面識がない。ただ、吾郎が大叔母にとって大切な人だということは知っている。箪笥の二段目の引き出しには、擦り切れてボロボロになった写真が大事そうにしまわれていた。

「何でも、ねえ……。上手く出来なくても、文句言うなよ」

 新たな弱みを握った灯至は酷薄な笑みを浮かべた。大叔母を揺り椅子の前まで連れて行き、両手を握る。

「ああ、吾郎さん……。お懐かしゅうございます……」
「モト子さん、長い間留守にしていて済まなかった」
「吾郎さん、貴方の植えてくださったケヤキがあんなに大きく育ちましたよ」

 即興だというのに、灯至は実に見事に吾郎を演じた。あの容姿と家柄では女性に困ったことはなさそうだし、元々稀代の女たらしの素質はあったと思う。

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