ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
縁側に座り大叔母の思い出話に相槌を打つこと一時間あまり。
揺り椅子の上で寝てしまった大叔母を灯至に布団まで運んでもらうと、粧子は細心の注意を払って襖を閉めた。
「まだ寝てるのか?」
「ええ、しばらく起きないと思います。本当にありがとうございました。あんなにはしゃいでいる大叔母は初めて……。お礼を言います」
素直に礼を言うと灯至は鳩が豆鉄砲を食ったようなキョトンとした顔つきになった。そんなにおかしなことだっただろうかと首を傾げる。
灯至は気をとりなおすように、コホンと咳払いをした。
「それで……あの婆さんはいつから入所する予定なんだ?もちろん、話はつけてあるんだろうな」
「あの……。もう少しだけ待ってもらえませんか?大叔母の心の整理がつくまで」
「工期が後ろに延びれば延びるほど、関係者の首が絞められる。あの婆さん一人の我儘で何千人もの人生が狂わされる事になるんだぞ?」
「それは……」
真っ当な理由で責められ、粧子は俯いた。粧子ひとりの力で何億円という損失を補填できるはずもない。
「なら、せめて大叔母の元へ通ってもらえませんか?週一回、いいえ一月に一度でもいいから。槙島の先代の振りを……していただけませんか?」
「あの馬鹿げた芝居をもう一度しろと?」
「お願いします……」
粧子は懸命に頭を下げた。大叔母にとって吾郎はいつまでも褪せないアルバムの一ページのようなもの。この家を離れるなら、せめて大叔母の望みを叶えてあげたい。
大叔母は今でもあの縁側で愛する人を待ち続けている。