ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「どうしてそこまでする?あの婆さんはあんたの母親を捨てた張本人だろう?恨んでいないのか?」
「どういう経緯があって大叔母が我が子を手放さなければならなかったのか、私も詳しいことはよく知りません。大叔母には自分が受けた恩を返しているだけだわ」
平松家に引き取られたばかりの頃、養父養母との折り合いが悪かった粧子はよく大叔母の家に預けられていた。
粧子の正体を知らない大叔母は粧子の身の上を不憫に思いあれこれと世話を焼いてくれた。
誕生日にはケーキを焼き、粧子が好きだというキャラクターグッズを一緒に買いに行ってくれた。……まるで本当の孫のように。
それがどれだけ粧子の心を救ってくれたか。多分、粧子は真実を知らなくとも灯至に同じことをお願いするだろう。
「なら、取引をしようじゃないか」
「取引……?」
取引と言われて嫌な予感しかしなかった。
取引とは大抵、弱みを握っている方が有利になるように条件が設定される。
この場合、有利なのは灯至の方だ。
灯至は粧子の頭の天辺から足のつま先まで視線を巡らせると、至極真面目な表情でこう言った。
「平松粧子、俺と結婚しろ」
「結婚!?」
突然告げられた提案は粧子を驚かせた。灯至の兄、明音との縁談が破談になってからまだひと月も経っていないというのに。
「どうして私と……?」
「ババアの選んだ女と結婚するくらいなら、あんたのほうが幾分マシだ。美人を娶れば株も上がるしな」
おおよそお世辞やおべっかとは無縁の灯至から美人と面と向かって言われるのは悪い気分はしないが……やはり唐突すぎる。
何か裏があるのではと訝しんでしまう。灯至はそんな粧子の思考を見透かしていた。