LIBERTEーー君に
5章 兵法三十六計 瞞天過海
ケルントナー通りの広場に2基のヴァイオリンの音色が響いていた。

「1人はヴァイオリン王子の詩月。もう1人は誰?」

多くの国際コンクールが新型ウィルス感染症拡大の影響で、軒並み延期あるいは中止を宣言していた。

2月にオーストリア国内初の感染者が出たと発表され、3月半ば以降は渡航者の入国禁止もされた。

オーストリア国内には中止あるいは延期をしないコンクールもあった。

「気づいてるか? こいつら、ブラームスのヴァイオリンコンチェルトばかり弾いてるぜ」

デュオは回を重ねるごと、評判になった。

4月末には「ケルントナー通りのブラームスコンチェルト」と呼ばれるようになった。

横浜、カフェ・モルダウでも、動画を歓談していた。

「あーーーっ!! こいつ、詩月に酒を飲ませたヤツじゃないか」

理久は郁子が観ていた画面を覗きこみ、カフェ中に届くほど大声で叫んだ。

マスクを着けていて彼らの顔は、はっきりと確認できない。


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