オタクな俺とリアルな彼女。
目が合わなくなって,俺は幾分落ち着く。



「水無月,薫…です。奏…じゃなかった…えと」

「薫,いい名だ。私の事は好きに呼べ。但し,その名ではもう呼ぶな」



好きに,好きに…?

ずっと1年も前,彼女が配信を始めた時から,俺の中ではずっと奏さんだった。

今さら変えるなんて出来ないし,本来知り得ない本名を呼ぶなんて気が引ける。

どうする,どうする。

あ。



「先輩,でもいいですか」

「…ああ」



先輩はひたりと指を頬に置いて,頷く代わりにゆっくりと瞬きをした。

やっぱり……綺麗だ。



「疑いようがない。君は……私の,"氷室奏"のリスナーなんだな?」



先輩はとんとんと考えるようにメガネのつるをつつく。

思考に沈む目が合わなくなって,最終確認のように俺にまた目が向けられた。

俺も,疑いようがない。

その,人に向けているのに,1人で考察をしているような話し方。

全部全部,彼女のものだ。



「…はい。コメントは…したことないですけど……初配信から,たまたま……」
< 12 / 47 >

この作品をシェア

pagetop