オタクな俺とリアルな彼女。
会話! 会話が成り立っている。

幸せだ…

只でさえ俺は…ただのリスナーじゃないのに…

逢えないと思ってた好きな人が目の前に……幸せすぎる。



「はぁぁ」



先輩が,ため息を吐きながらメガネを整えた。

様になりすぎて,俺もため息を吐きたくなる。

そして首を回した先輩は,両手を組んでひっくりかえし,俺の方へ伸ばした。

準備運動のようなそれは,事実先輩の気を引き締めたようで。



「見つかったものは仕方ない。良く聞きたまえよ,薫」

「っはい!」



名前,呼ばれた……呼び捨て……

呑気だ,呑気な自覚はある。

まだ大丈夫だ。

働け,俺の理性。



「私はそもそも,身バレするつもりは愚か,ここまで大きくなるつもりはなかったんだよ」

「あー,呑みに付き合ってくれる人が…ってやつですよね」



先輩は何故か,ぐっと言葉を詰まらせた。

また右手の拳がいつの間にか握られている。

俺は本当に,数人のつもりだったんだろうなと思った。

こんなに真剣に話を聞いて最適解をくれる美人をほっとく人なんているわけがないのに。

それが誤算だなんて,少し抜けている。



「ふっ…」

「笑うな。ならば何故姿を映したと言いたいのだろう。どうせ画面を見ながら話すのであれば,そちらの方が都合がいいかと思ったんだ。そうすれば私が考えに耽ろうと,あちらは気にせず待つだろう」



確かに,先輩は考え込むと,長くて10分は動かなくなることがある。

でも,俺が笑ったのはそこじゃないんだよなぁ。
< 13 / 47 >

この作品をシェア

pagetop